『親指のつけ根が痛む』『親指が動かせない』『ペンで文字が書けない』
腱鞘炎(けんしょう炎)と呼ばれる症状があります。
一般的に腱鞘炎と呼ばれるのは、親指の付け根あたりの症状を指します。
親指付け根周辺が痛くなり、親指中心に指が動かなくなるものです。
腱鞘炎の施術例を述べる前に、腱鞘の構造について触れておきます。
身体を動かす時は筋肉収縮が必要です。
それに伴い、骨には腱と呼ばれるひものようなものがくっついています。
筋肉が縮んで腱を引っ張り、それに伴って骨が動くのです。
腱は骨に沿うように腱鞘(けんしょう)という筒のようなものの中を通っています。
腱鞘はその文字通り、腱をつつむ刀の鞘(さや)のようなものです。
手や腕の使用過多で腱や腱鞘に炎症が生じ、腱が腱鞘の中をスムーズに動きにくくなります。
ひどくなると、腱が動かなくなります。
すると、腱が接続している骨が動かなくなる。
一般的な腱鞘炎で親指が動きにくい・動かないというのはこういったわけです。
腱鞘炎の原因の多くは、腕や手を使い過ぎること。
職業的にはプロ演奏家やウェイトレス、漫画家や小説家に多く見られます。
保育士の方に腱鞘炎が多い理由は小さい子どもを抱っこする機会が多いからでしょう。
では、腱鞘炎で見えたお客様にはどういった施術を行っているか?
腕のねじれととるとともに、ずれた骨を元に戻します。
そうすることで、腱鞘炎ができる原因に直接働きかけ、結果的に炎症が改善されます。
腕はひじを中央にひじと手首の間、ひじと肩の間の2つに区分されます。
ひじと手首の間を前腕(ぜんわん)と呼び、今回の腱鞘炎に深くかかわっています。
私たちが何か手作業をする時、多くの場合手の甲が上になるように腕を内側にねじります。
腕を内側にねじらないで作業することは、ほとんどないのでは?
いろいろ考えましたが、お盆を持つ作業(?)ぐらいしか思いつきません。
この文章も、腕を内側にねじってキーボードを叩いているわけです。
腕を内側にねじる場合、前腕を主にねじります。
ところで前腕には骨が2本あります。
親指側にある骨を橈骨(とうこつ)、小指側の骨を尺骨と呼びます。
腕を内側にねじると、橈骨は尺骨の上に重ねるようになります。
要するに、橈骨が手首側に引っ張られることになる。
そして、橈骨が手首側にずれて親指つけ根を押し出すように。
親指側にある橈骨が手首つけ根を押すと?
親指に負担がかかることになるわけです。
これが腱鞘炎の根本的な原因ではないか、と私は考えています。
腕の内側ねじれを元に戻すのは、同響法では薬指第一関節と第二関節の間をこすります。
第一関節と第二関節の間を、手のひら側を小指から親指に向かってこする。
親指手首付近に引っ張られた橈骨を元に戻すには?
再度、手のひら側の薬指第一関節と第二関節の間を用います。
第一関節と第二関節の間、親指寄りの縁を手先側から手首側に向かってこすればいい。
私はねじれを戻してから橈骨を元に戻しています。
繋解法では、指や腕のコリ硬さを溶かしてゆきます。
多くの場合ひじや親指、肩が対応点になっているのでじっくり時間をかけて。
足立区からお見えになったF様は、親指だけを包むような黒いサポーターをしていました。
サポーターをはずすと小さな湿布が親指付け根に貼ってありました。
F様は中学校の先生で、大学卒業後すぐ腱鞘炎に悩まされてきたとか。
『最近は、黒板に文字も書きづらくなって・・・左手で文字を書く練習を始めました』
カラっと笑顔で笑うF様は、やっぱりどこか寂しそうでした。
『文字が書けなくなったら教師廃業するか?なんて思うこともあります』
「廃業する必要はありませんよ」
F様の身体は腕の硬さとねじれがありました。
肩や鎖骨のゆがみも大きく、これは腕だけの問題ではないですね。
とにかく身体を整えなければ。
繋解法で腕と指、鎖骨をゆるめました。
仕上げに、というか念には念を入れて同響法で橈骨を戻しておきました。
『あれ?痛くない、大丈夫です。ウソみたいだ』
起き上がって手帳に文字を書き始めたFさんはニッコリと子どものように笑うのでした。